披露宴で音が途切れないのは、当たり前ではありません。音響を担当していた頃の話
披露宴に出席されたときのことを、思い出してみてください。
ご入場のときに曲が流れて、乾杯で切り替わって、ケーキ入刀で盛り上がって、お手紙のところで静かになって。そのどこかで、音が途切れていたでしょうか。
おそらく、途切れていなかったと思います。そして、途切れなかったことを覚えてもいらっしゃらないはずです。
私はホテルの宴会サービス課で会場責任者をしておりましたが、あわせてPAも担当しておりました。音響、BGM、照明。会場の音と光を出す係です。
今日は、その席から見えていたことを書きます。私が犯した、2度の失敗も含めて。
入社1か月で、その席を任されました
大学を卒業して入った会社で、1か月も経たないうちに抜擢されました。スパルタ教育でした。
何百万円もかかっている披露宴です。失敗できません。そこで、見たこともない機械設備の操作を、実践しながら学んでいきます。何も分かっていない22歳が、です。
正直に申し上げると、毎週プレッシャーで、週末は吐き気がひどかったです。慣れるまでは、当日のお昼ご飯も食べられませんでした。もうブラックもブラックでしたね(笑)
週末は会場の準備で日付をまたぎ、家に着くのが午前様。そこから指示書を読み込んで、使うBGMを全部チェックします。当日の出勤時刻は9時と書いてあっても、実際には7時に入ります。眠れるのは3時間ほど。 夜勤の当番が重なると、36時間続けて動いていたこともありました。
なぜこんな話から始めるのか。この時間の使い方が、そのまま「音が途切れない」の中身だからです。
当日の朝、何をしていたか
出勤してまずやることが、いくつかあります。
会場の音声チェック。 マイクが拾うか、スピーカーから正しく出るか、ハウリングは起きないか。
式場すべての照明の確認。 電球が切れていないかを、一つずつ見て回ります。切れていれば交換します。
この電球の交換が、なかなか手間でした。天井の高い会場では、カゴ車を出してきて登ります。 危ないので、一人ではできません。人を呼んで、2人がかりです。当日の朝、式が始まる前に、それをやっています。
そして、音源のチェック。
ここが当時いちばん神経を使うところでした。
CDの時代の話をさせてください
いまとは事情が違いますが、聞いていただくと「音を出す」という仕事の中身が伝わると思います。
当時の音源は、CDが主体でした。CDは、汚れや傷で音飛びを起こします。
ですから、入念に確認します。1枚ずつ、実際に鳴らして、飛ばないかを聴きます。前日の深夜に「これはまずい」と思ったものは、その場で音源を取り直していました。
そして本番の操作です。
- 複数の曲をチェンジャーで入れ換えながら進めます
- 流したい部分の3秒前で一時停止させておきます
- 合図と同時に、フェーダーを上げる
この仕込みを、進行の一つひとつに対してやります。何十曲分もです。相当に大変でした。
いま思えば、CDという道具の都合に、こちらが合わせていたわけです。
私は、2度の重大なミスをしました
ここからは、書くかどうか迷った話です。ただ、これを抜くと「音の重さ」が伝わらないので、書きます。
キャンドルサービスで、曲を途切れさせました
各テーブルを回り終えて、高砂へお戻りになるところでした。その場面で、曲を完全に途切れさせてしまいました。
会場から「音きれたやん」という声が聞こえました。
5秒ほどで、エレクトーンの奏者の方が繋いでくださいました。会場に生演奏の方がいらっしゃると、こういうときに助けていただけます。
ただ、これはプロとしてやってはいけないミスです。5秒間、あの会場に音がありませんでした。
ケーキ入刀で、違う曲を流しました
PAになりたての頃です。ケーキ入刀の瞬間に、指定されていたBGMとは違う曲を流してしまいました。
幸いと申しますか、たまたま非常に良いタイミングで、良い音楽が流れる形になりました。私と新郎新婦様以外は、気づかなかったと思います。
ですが、お二人は気づかれます。 ご自身で選ばれた曲だからです。
もちろん、会社全体で深く謝罪し、ご容赦いただけましたが、もう泣きそうでした。
この2つが、いちばん伝えたいことです
失敗談としてではありません。
曲が5秒切れただけで、会場から声が上がります。 それだけ、音は聞かれています。誰も意識していないのに、無くなった瞬間だけ全員が気づく。
曲が違っただけで、お二人は気づかれます。 ご自身で選ばれたものだからです。ほかの誰も分からなくても、当事者には分かります。
装花や演出は、目に見えます。だから、お金をかけたかどうかが分かりやすい。一方で音は、うまくいっているときには存在しないものとして扱われます。存在に気づかれるのは、失敗したときだけです。
PAは、そういう席です。進行を全部把握したうえで、音声とBGMと照明を同時に持ちます。 キャプテンと並ぶ重さの役割だと、私は思っております。
いまは、だいぶ変わっています
ここまで当時の話をしてきましたが、現在の事情はかなり違います。
いまはパソコンなどからのデータ出しです。私が苦戦していた問題は、ほとんど無くなっていると思います。 音飛びの心配も、チェンジャーの入れ換えもありません。ですから、音源の不安については、いまはあまり気にされなくて大丈夫だと思います。
そしてもう一つ、体制の話があります。
都会のホテルでは、音響を外部に委託しているところが多くなっています。 音の専門会社が入る形です。私のように、会場のスタッフが兼務するとは限りません。
これは良し悪しの話ではありません。専門の方が入るほうが、機材も技術も確かなことが多いと思います。ただ、当日その席に誰が座っているのかは、会場によって違うということです。
音のことで、確認できること
1. 音源は、持ち込むより会場にお願いするほうが安心です
いまは持ち込んでもほとんど問題ありませんが、どうしても安心されたいなら、会場に音源をご依頼になるのがいちばん確かです。 会場側で用意したものは、その会場の機材で鳴ることが分かっているからです。
2. 音響を担当されるのは、どなたですか
会場のスタッフの方か、外部の音響会社か。どちらでも構いませんが、分かっているほうが安心だと思います。
3. 使いたい曲がある場合、いつまでに何をお渡しすればいいですか
締め切りと渡し方を早めに伺っておくと、直前に慌てずに済みます。
4. 挙式や披露宴で、生演奏はありますか
私がミスをしたとき、エレクトーンの方に助けていただきました。生演奏が入る会場は、何かあったときに繋げる手があります。
ご入場の曲が鳴って、乾杯で切り替わって、お手紙のところで静かになる。
その一つひとつの裏側に、前の晩に音源を確認して、朝カゴ車に登って電球を替えて、3秒前で指を構えている人間がいます。うまくいけば、誰にも気づかれません。
気づいていただかなくて結構です。ただ、そこに人がいることだけは、知っておいていただけたらと思います。
私はそこで2度失敗して、いまでも覚えております。